1.主訴
顔面麻痺
2.患者様
80歳代前半 女性
3.現病歴と症状
1)1月初めに発症。その前々日からめまいが起こっていた。その夜、左顔面に麻痺が起こった。
2)翌日、耳鼻科病院に行ったところ「左側顔面神経麻痺」と診断された。治療はステロイド剤を服用した。3週間、治療を続けても麻痺が治らなかった。それ以上の治療はなかった。
次の症状があった。
表1.症状一覧
部位 | 症状 |
眼 | 左麻痺側は、完全に瞼を閉じることが出来ない。眼を閉じようとすると眼球が上に向く(兎眼)。 |
額の皺 | 額に皺を作ろうとしても左麻痺側に皺が出来ない。 |
口唇 | 左麻痺側の上下口唇間が閉まらず、さらに口角が下がっている。水を飲むと口から少し漏れる。口笛を吹くことができない。 |
鼻唇溝 | 左麻痺側の鼻唇溝(ほうれい線のことで、鼻から出て口の横を走る皺)が消えている。 |
涙腺 | 涙が流れ出る。しかし、眼が乾燥する。乾燥すると眼がピリピリと痛い。それで眼帯をしている。 |
4.顔面麻痺の原因
ここで、「顔面麻痺」と記して「神経」がないのは、この病気が神経障害ではないからです。また、この患者様は帯状疱疹ウィルスに罹患したことが顔面麻痺発症の引き金になっていますが、直接の原因ではありません。帯状疱疹ウィルスに罹患しなくても顔面麻痺は発症します。原因は、顔面の筋肉の、すなわち経絡の動態平衡のアンバランスです。緊張と緩和の平衡が図れないために、筋肉の力が緩んで力が入らない状態です。全身によく起こっている現象ですが、顔には多くの経絡が流注して、その気が変動すると大変、不都合が起こります。下記がそのイメージです。
図1.顔面麻痺のイメージ(引用;愛知県医師会)
顔面麻痺は、ご自身の回復力だけでも良くなりますが、かなりの方に後遺症が残ります。口角や眉、瞼が片側だけ下がっている方を見かけますが、これらは後遺症です。目に見えなくても、唾液がでないとか、涙が出なくてドライアイになっているとか、逆に涙が流れる、食べ物を噛むと涙が出る、頬が引っ張られるなど、日常生活に支障をきたしている方が多いように思います。一時的に寛解していますが、まだ、体質の変化はそのままだからです。治療は体質の変動を治すことになります。
5.治療結果
回 | 治療結果 | 備考 |
1 | 脈診と腹診、および問診等から体と病、および経絡の「陰陽虚実」を診て治療方針を決定。鍼で経絡の気の調整を行う治療を開始した。 | |
2 | 前回の治療後、1回の治療で早くも効果が出て顔が楽になった。左顔面の麻痺が少し良くなっていた。口から水がこぼれ難くなった。以降、同じ治療方針。 | |
4 | 患側の下瞼が緩んで垂れ、眼瞼が少し開いている。それで涙が流れ落ちる。まばたきも減少して、涙を角膜全体に届けられないので眼が乾燥してチカチカする(ドライアイ)。左の鼻孔から鼻汁が流れ落ちる。しかし、口角は少し上がった。 | |
6 | 左眼の内側を押さえるとチカチカして痛い。左眼外側は涙が流れそうになる。しかし、額の皺が作れ、口から水はこぼれなくなった。鼻汁も流れる量が少なくなった。 | |
8 | 涙は流れるようにでている。しかし、まばたきが少ないため、まだドライアイになっている。兎眼もある。 | |
11 | 涙が垂れなくなった。耳の後ろの痛みがなくなっていた。 | |
12 | 口の中心が顔の中心に寄りつつある。左右の鼻唇溝が不均一で、口が麻痺側に引っ張られている。 | これが最後の症状となることが多い。 |
17 | 顔面麻痺の症状は、以下のように殆ど完治した。 a)眼;眼をキュッと強く閉じれるようになった。兎眼はない。下瞼の下垂もなくなった。 b)額の皺;額の皺を強く作れる。 c)口唇;水が口から漏れることは全くない。口の中心が顔の中心に寄ってきた。 d)鼻唇溝;はっきりでて左右同じように均一である。 e) 涙腺;涙が流れ出なくなった。さらに眼が乾燥することもない。今回で経絡の変動がなくなった。 |
治療を終了した。 |
以上
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脈診経絡はり治療専門
あん鍼灸院
香川県高松市木太町1247-11
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