リウマチ【治験例1】|あん鍼灸院

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リウマチ

1.主訴

リウマチ

2.患者様

50歳代後半 女性

3.現病歴と症状

1)現病歴

3年前、足首と手首に疼痛と腫脹がありリウマチ専門病院を受診した。その時、リウマチと診断された。病院の診断理由は次の通り。

(a) リウマチ因子(+)

(b) 右薬指と左小指第1関節の骨変化あり。

(c) RF定量値(リウマトイド因子定量値);21(基準値15IU/ml以下)

(d) CCP抗体値(抗シトルリン化ペプチド抗体値);(3年前)450、(1年前)106.15(基準値4.5U/ml未満)

(e) CRP定量値(C反応性蛋白定量値);0.24(基準値0.3mg/dl以下)

 

2)リウマチ発症箇所と症状

(a) 左足首(くるぶしの周り)の疼痛と腫脹

(b) 左手首と母指のつけ根第3関節の疼痛と腫脹

(c) 右薬指と左小指の第1関節の疼痛と腫脹。 前者は第1関節が少し屈曲している。いずれも骨棘はない。

上記のように足首や手首の大きい関節が炎症を起こし腫れ、大変痛い。

 

3)服薬

3年前から病院にかかり、リウマチ薬「リウマトレックス」(トレキサート)を服用している。しかし、その痛みをとる効果が思わしくなく、2ヶ月後から生物学的製剤「アクテムラ」を月1回、注射(0.9mg)している。鎮痛効果があり、痛みはなくなっている。しかし、1ヶ月も経つと薬の効果が切れて痛みが出てくる。ドクターから「アクテムラ」はリウマチを根本治癒させる薬剤ではないので、生涯、注射が必要と言われている。ほぼ3年間、毎月、血液検査とアクテムラの注射を行っている。来院時はアクテムラを注射したところで、今、痛みはない。

東洋医学の鍼で治したいと来院されました。

4.リウマチ

リウマチは、骨や軟骨が破壊されてゆく病です。それにより関節の腫れや痛み、変形が現れてくる。全身の関節の骨が破壊される。最終的には、骨が破壊しつくされ痛みは和らいでくる。しかし、骨の破壊によって関節は変形が起こり、指であれば「屈曲」(手掌側に関節が曲がる)や「過伸展」(手の甲側に関節が曲がる)が起こる。進行するとスワンネック(鶴の首に似た)変形、ボタンホール(ボタン穴に似た)変形と呼ばれる特有の変形が起こる。

病院では「免疫の働きが異常に亢進し、自分自身の細胞や組織を攻撃する」と考えている。自己免疫疾患と呼んでいる。リウマチ薬としてリウマトレックスがあり、新しい生物学的製剤も、症状の緩解(腫脹や痛みなどの炎症症状が落ち着くこと、学会の説明から)を目的として発売されています。それらの薬は抗炎症剤(鎮痛剤)のようなもので「発症した炎症を抑制する薬」です。炎症すなわち、免疫細胞の抗争が起こる時に産生される炎症性サイトカインを抑制する薬群です。サイトカインには抗炎症性サイトカインもある。

ただし、「炎症」とは、外傷、細菌の侵入、薬物・放射線の作用、内傷(内因性の傷害)などに対して、生体の恒常性を維持するための『防御反応』である(学術用語辞典)。体の一部に充血・はれ・発熱・痛みなどの症状を起こす。「炎症」は、痛みを起こすが生体の恒常性を維持するための自然に備わった『防御反応』である。

東洋医学での「免疫」という概念はすでに紀元前26年から2~3世紀までに確立していて、体の「恒常性」を保つための仕組みができあがっている。それを『衛気』(えき)という。『衛気』はリンパの流れに入り全身を巡り邪(外敵)から体を守り、一部は、心臓へゆき血液となり全身を巡り同じく邪(外敵)から体を守る働きをしている。既に「免役」の概念と定義が完成している。前者はリンパ球のことで、後者は白血球やマクロファージなどのことである。

膠原病という言葉は、世界的に使われなくなりました。膠原病の一つ、「ヘバーデン結節」なども手指の関節に疼痛と腫脹が起こり、次第に関節の骨が大きくなり、また関節内にも骨の棘(とげ)のように骨が増殖してゆく病です。

「リウマチ」は、関節の骨が破壊されてゆく病です。その過程で手指の関節や大きい関節に疼痛と腫脹が起こります。

正反対のことが起こっていますが、両者の原理は似ています。次の通りです。

 

(引用;実践医学・骨代謝(羊土社))

骨は毎日、恒常的に、古くなった骨細胞を破骨細胞が壊し、そこに新しい骨芽細胞を導入する(上図参照)。骨芽細胞は骨細胞に成長する。新旧の骨細胞が毎日、連続した運動性を持ち少しずつ入れ替わっているのが骨の世界です。それでヒトなどは二足歩行しても骨折もなく生きて行ける。これらは、骨組織に対して骨細胞の破壊と導入のバランス、すなわち「平衡」が保たれているのです。ところが、リウマチなどは、この平衡が維持できていないのです。

 

東洋医学の『陰陽論』で考えるとよく解ります。リウマチは骨細胞が陰性的に、つまり遠心的に関節の骨から消失するのが優勢な病で、ヘバーデン結節は骨細胞が陽性的に、つまり求心的に骨内に増殖するのが優勢な病と考えます。ですから、リウマチは関節の骨が破壊され、関節がその形を保てなくなり変形し、遂には脱臼します。ヘバーデン結節は、関節の骨が大きく成長膨隆し、骨棘が関節内に発生して関節が動かなくなり、遂には脱臼します。

『陰陽論』は、『宇宙、世界の本質は陰陽一気で成り立ち、陰陽の「対立」と「統一」によるものである』と定義している。つまり、万物の発生や消滅、発展や変化は全て、陰陽の「対立」と「統一」という矛盾した運動の結果であるとしている。ヒトが正常な生命活動を継続できるのは、この陰陽相互の「対立」と「統一」によって生み出された「動態平衡」の結果であるとしている。この「動態平衡」によって、宇宙、そして自然界も一刻も休むことなく活動を続けることができる。

地球上の動物には新旧の骨細胞を入れ替えするコントロール機能が自然と、体に備わっています。従って、治療はこれを正常な状態に戻すことです。壊すのを陰とすれば、つくるのを陽とする。この『陰陽の気の動態平衡を調整して体質改善する』ことが、正常な骨へと根本治癒に導きます。しかし、壊れてしまった骨を元に戻すことは、体質改善できたとしても並大抵でなく時間がかかります。従って、骨の変形が軽い早期に治療を始めることが最善です。

 

雑談になりますが、陰陽がよくわかる事象があります。私たち地球上の動物の血液は赤色で、それは赤血球ヘモグロビンの色です。ヘモグロビンの主な働きは、肺に吸入した空気から酸素を体内に取り込み、身体中にそれを運搬する役目を持っている。そして体内で発生した二酸化炭素は、一部は体内で重炭酸合成に使用されて、余った二酸化炭素をヘモグロビンが肺経由で体外に排出する。一方、植物は緑色で、それは葉緑素クロロフィルの色です。クロロフィルの主な働きは、二酸化炭素を葉の気孔から取り込み酸素と炭素に分解して、一部の酸素は化学的に貯蔵し、余った酸素を排出し、炭素は植物体を作るために使用します。

これらのヘモグロビンとクロロフィルは大変、化学構造が似ています。骨格は「ポルフィリン」という大きな環状化合物です。その中心に動物のヘモグロビンは鉄(Fe)を、植物のクロロフィルはマグネシウム(Mg)を取り込んで化合物を構成しています。その色もヘモグロビンは赤、クロロフィルは緑(青ともいう)で、つまり太極の陰陽の色にあたります。補色です。前者は陽、後者は陰に分けられます。一方は地球上の酸素を使うために、他方は二酸化炭素を使うために発達した化合物です。また、動物は「ポルフィリン」という化合物を植物から摂取しなければ獲得できません。植物から摂取できない時には、植物または海藻を食べた動物の血液を摂取しています。肉食動物は草食動物を摂食しています。つまり、植物が絶滅すれば動物も一緒に絶滅する。自然現象は全て繋がり、相互に「対立」と「統一」を繰り返し共有しているのです。そして、陰陽の考えに従えば、動物は酸素を求心的に、二酸化炭素を遠心的に動かし、植物は二酸化炭素を求心的に、酸素を遠心的に動かす。ちょうど反対(対立)のことをして、地球上ではお互いが共存(統一)できるようになっている。これが地球の、そして宇宙の摂理です。宇宙の摂理に従って、ここに共存して生命を育んでいるのです。

病気も自然現象です。宇宙の摂理に基づいて起こっています。そこには陰と陽の気と現象が必ずあり、その平衡が崩れているのです。ですから、陰陽の気の平衡を整えることが大切なのです。

5.治療結果

(1回目)脈診と腹診、および問診等から体と病、および経脈十二経の「陰陽虚実」を診て治療方針を決定。東洋医学の治療方針に基づいた鍼で全身の気の調整を行なう治療を開始。病は「体質改善」して根本的に治すとよく言われます。病にはそれを引き起こす「病因」が必ずあり、それを治すことが「体質改善」です。

鍼は細く柔らかい直径0.15ミリ程の銀製品(ディスポーザー)を使い、皮膚に非常に浅く刺して気の調整を行う。しかし、患者様に皮膚に鍼を刺された感覚はありません。そこで気の不足を補い、その過剰を抜き去り、または気の働きを妨げる邪気を取り除き、そして気の滞りを流す。この「気の調整」が当院の特徴です。肘から先の経穴(つぼ)と膝から下の経穴を使い、鍼を以って皮膚全体に広がる気のネットワークの「動態平衡」を修正し、生命を統制します。この患者様の『リウマチ 』は健康を維持する動態平衡が崩れて発症しています。鍼術は経穴に鍼を刺して抜くだけでは、症状を一時的に和らげることはできても根本治癒は難しい。根本治癒には「気の調整という鍼術の手技」が必要で、施術者の身体を通して指から患者様の体に作用します。鍼はあくまで、二者を結ぶ精密な連絡橋です。

(7回目)生物学的製剤アクテムラの注射を受けた。病院へは患者様の意思で、この注射を一時やめたいと申し出たと聞いた。鍼治療は1回目と同じ治療方針を継続する。

(9回目)前回のアクテムラの注射から1ヶ月を経た。アクテムラの注射はしなかった。CRP;0.31(0.3以下が正常範囲)

(12回目)病院で血液検査を2ヶ月に一度、行っている。今回の検査結果は次の通り。CCP抗体;137.52、CRP;0.17 。病院からアクテムラの注射を止めて以降、2ヶ月くらいで痛みが再び出てくると言われている。丁度、2ヶ月を経た。痛みはまだ、出ていない。鍼治療を継続する。

(15回目)3ヶ月を経過した。まだ痛みは出ていない。

(20回目)4ヶ月を経過した。まだ痛みは出ていない。CRP;0.16

(25回目)5ヶ月を経過した。まだ痛みは出ていない。脈診から脈の変動が少し小さくなってきた。

(28回目)6ヶ月を経過した。まだ痛みは出ていない。脈診から脈の変動がさらに小さくなってきた。

(29回目)脈診からほとんど脈の変動がなくなっている。

(30回目)脈診から脈の変動がなくなった。すべての経脈の気は陰陽共に平坦(平衡)になっていた。鍼治療をしだして7ヶ月が経った。しかし、痛みはでていない。この内因性の病は、気の調整が終わり「根本治癒」した。さらに、経過観察をするため治療を2週間に1度に切り替えた。

(32回目)31回目から1ヶ月あけて来院した。8ヶ月間、痛みが無い状態が続いている。治療を終了した。

以上

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